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新潟地方裁判所長岡支部 昭和42年(ワ)21号 判決 1969年7月24日

原告 木島信一

右訴訟代理人弁護士 小畔信三郎

被告 富士陸送株式会社

右代表者代表取締役 大岡俊雄

<ほか一名>

主文

被告等は原告に対し、連帯して金二四〇万二七四四円及び内金二〇四万九四〇四円に対する昭和四二年二月一九日から、内金一万八四四円に対する昭和四三年四月一日から、内金三四万二四九六円に対する昭和四四年四月一日から各支払済まで年五分の割合による金員を支払え。

原告のその余の請求を棄却する。

訴訟費用は被告等の負担とする。

この判決は仮に執行することができる。

事実

≪省略≫

理由

一、原告主張の日時にその主張の場所で、被告武貞の運転する被告車と原告が衝突し、原告が傷害を負ったことは当事者間に争いない。

二、そこで、まず被告会社が被告車の運行供用者であるか否かについて検討するに、被告会社は自動車の販売会社が売却した自動車を買主に陸送することを業としているものであるところ、本件事故は、被告会社の運転手被告武貞が、訴外大阪マツダ販売株式会社が新潟県新津市の訴外渡辺商会に売渡した同訴外会社所有の被告車を陸送中に発生したものであることは被告等の自ら認めるところであり、右事実によれば、被告会社において被告車のいわゆる運行支配と運行利益を有していたものと認めるのを相当とするから、被告会社が右被告車の運行供用者であると認める。従って、被告会社は被告車の運行によって原告が負った傷害により生じた損害を賠償すべき責任がある。

三、そこで、次に被告武貞の責任につき検討するに、≪証拠省略≫によれば、本件事故現場は幅員六・一メートルで車両のすれ違いがやっとできる位の東西に通じる比較的狭い道路であり、公安委員会の指定で時速三〇キロメートル以下に速度が制限されている個所であるところ、当時事故現場の道路上を原告が南側から北側へ横断しようとしていたのであるから、自動車運転者たる被告武貞は、公安委員会の設置した道路標識に従い速度制限をするとともに、常に前方を注視し進路前方の障害物を発見し速かに事故防止の措置をとるべき義務があるところ、不注意により右速度制限の標識を見落し、しかも予定より時間が遅れていたこともあって時速約五〇キロメートルで進行するとともに、前方注視が充分でなかったため右横断中の原告を約一一・六メートルの近距離で発見し、急いで制動措置をとったが遅く本件事故を惹起させたことが認定でき、右認定を覆すに足りる証拠はない。従って、被告武貞には本件事故の発生につき過失があり、従って直接の加害者として原告が本件事故により蒙った損害を賠償すべき責任がある。

そして、被告等の右責任は、いわゆる不真正連帯債務であるというべきである。

四、そこで、原告の蒙った損害について検討する。

(一)  ≪証拠省略≫によれば、原告は本件事故により請求原因(四)の(1)記載の傷害を受け、その主張のとおりの病院へ入院又は通院をして治療を受けたものであることが認められ、右認定に反する証拠はない。しかして、原告は次のとおり合計五二万一四五八円の治療費その他諸費用を支出したことが認められる(但し、原告は見舞返礼費用一一万三五五〇円を請求しているが、それを上廻る見舞収入を得ているから右請求額は損害とは認めることができず、本件全証拠によってもそれを認めるに足りない)。

(1)  ≪証拠省略≫により長岡赤十字病院入院治療費等一八万八九六円。

(2)  ≪証拠省略≫により、新潟県立療養所悠久荘へ診断費五三一二円。

(3)  ≪証拠省略≫により診断書作成費用合計七〇〇円。

(4)  ≪証拠省略≫により付添人の日当七万一〇〇〇円、同人使用の貸フトン料四八八〇円、計七万五八八〇円。

(5)  ≪証拠省略≫により医療薬品等費用三万三八五〇円。

(6)  ≪証拠省略≫によりマッサージ治療費一万五〇五〇円。

(7)  ≪証拠省略≫により入院諸費用四万二六四〇円。右のうち、散髪代三回計二二二〇円は入院中のための理髪師の出張散髪による出費であり、食料品代一万七四五円は栄養補給のため、フトン代六〇〇〇円は打撲の治療用に各出費したものであり、新聞二種類の購入代二二一五円及び貸テレビ料一万八三〇〇円は入院中の退届さを慰すための出費であって、以上はいずれも相当な出費であるというべきである。

(8)  ≪証拠省略≫により通院及び通勤費用八万六七一〇円。

(9)  ≪証拠省略≫により入院中の栄養補給のため等の食費等二万五二二〇円(原告は二万五七二〇円を請求しているが、本件全証拠によっても右の限度でしか認めることができない)。

(10)  ≪証拠省略≫により本件事故により破損した眼鏡、洋服等の買替修理費五万五二〇〇円。

(二)  ≪証拠省略≫によれば、原告は、本件事故による欠勤のため勤務先中越高校昭和四一年七月分期末手当一万五三〇〇円、長岡高校の同年五月分の給与二万一六〇円、同年六月期の期末手当四七三八円の合計四万二九八円の収入を失ったことが認められ、右認定に反する証拠はない。

(三)  ≪証拠省略≫によれば、原告は、本件事故当時中越高校及び長岡高校に体育教師として期間の定めなく雇傭され、前者より月額三万円、後者より二万一六〇円の月収を得ていたものであるところ、本件事故による受傷のため体育教師としての能力が低下したため、右長岡高校からの月収は昭和四三年四月から昭和四四年三月まで各一万九〇〇〇円に(従って月当り減収額は一一六〇円)、同年四月以後は各八〇〇〇円に(従って月当り減収額一万二一六〇円)、各減額されたことが認められ、右認定に反する証拠はない。そして、≪証拠省略≫を総合すれば、運動神経の敏速さの要求される体育教師としては最大限正常の授業を行い得るのは六五年までと認めるのを相当とし、右認定を覆すに足りる証拠はないから、原告は右年令に達する昭和四七年五月(厳密にいうと四月二〇日までであるが、便宜五月全部を計算に入れる)まで稼働可能であると認める。そうすると、原告は少くとも昭和四四年四月から昭和四七年五月までの間月当り一万二一六〇円の将来の収入を失ったことになる。そして、右収入が減額された時点で右将来の逸失利益の一時支払いを受けるものとして年五分の中間利息を控除すると、それは左のようになる。

(1)  昭和四三年四月から昭和四四年三月まで一二月間、月当り一一六〇円、その月別法定利率による単利年金現価率は一一・六八五八であるから、右期間中の損害は一万三五五五円。(円未満は切捨て、以下同じ)

(2)  昭和四四年四月から昭和四七年五月まで三八月間、月当り一万二一六〇円、同様その現価率は三五・二〇七四であるから、右期間中の損害は四二万八一二一円。

従って、原告の主張する請求原因(四)の(3)(ロ)の損害は右の限度で理由があり、その余は失当である。

(四)  ≪証拠省略≫によれば、原告は、本件事故により前記(一)記載の傷害をうけて入院、通院を重ねたうえ、現在でも右傷害が治癒せず日常生活上の動作にすら不便を感じているほどであること、そのため身体機能の高度な活動が要請される体育教師としての職務に支障を来たしていること、従ってそのため前記稼働可能の期間中を円満に勤務できるか否か予測できず常に不安を覚えていること等を併せ考えると、本件事故による慰藉料としては金二〇〇万円が相当であると認める(当裁判所は、本件のようにすべての損害の発生が法益侵害としての身体傷害の事実に帰すると主張されている場合は、訴訟物は主張総額一個であり、損害の費目の主張は単にその算定上の資料として主張されているにすぎないと解する。従って、主張総額の範囲内である限り慰藉料をその主張額より超えて認定しても民事訴訟法一八六条に反するものでないと考える)。

(五)  ところで、前記三認定のとおり本件事故の発生については被告武貞に過失があることは明らかであるが、他方右同項掲示の各証拠によれば、原告は本件事故現場の道路上を南側から北側に横断しようとする際に、自己の左及び右(本件事故現場の西及び東側)から車両が進行してくることを認めたが右車両の到達する前に横断できると考えて横断を開始したところ、右各車両の進行が意外に早く、そのため原告は道路上で進むことも退くことも出来なくなり、やむを得ずとびこみ前方回転の要領で被告車の前を通過しようとしたが同車に衝突したものであることが認められ、右認定を覆すに足りる証拠はないところ、歩行者が右のように車道の横断を開始する際には進行してくる車両の存在のみならず、その速度、動静をも注視したうえで進行を開始すべき義務があるというべきであり、その点につき注意を怠った原告にも、本件事故の発生につき過失があるものと認められ、それは被告武貞の過失の五分の一の割合であると認めることを相当とする。従って、前記各損害は右割合の限度で減額される必要がある。そうすると前記(一)の損害額は合計四一万七一六六円、(二)の損害額は三万二二三八円、(三)の損害額は一万八四四円及び三四万二四九六円、(四)の損害額は一六〇万円となり、合計二四〇万二七四四円になる。

五、そうすると、被告等は原告に対し、連帯して右合計額二四〇万二七四四円と、そのうち、(一)、(二)及び(四)の損害額の合計二〇四万九四〇四円に対しては連帯債務者中の一人たる被告武貞に本件訴状が早く到達したことが明らかであるところの翌日である弁済期経過後の昭和四二年二月一九日から、うち(三)の一万八四四円及び三四万二四九六円については前記各一時に支払いを受け得る時点としてその中間利息控除の起算をした昭和四三年四月一日及び昭和四四年四月一日から、各支払済まで民法所定年五分の割合による遅延損害金支払義務があるというべきである。

よって、原告の本訴請求は右限度で理由があるから認容し、その余は棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条但書、九三条、仮執行宣言につき同法一九六条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 渋川満)

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